「重粒子線」がん治療の基礎知識とこれから…保険適用拡大で注目
実際、X線と重粒子線で前立腺がんを治療して2年おきに10年間観察した研究では、重粒子線の発がん率が低いことがわかっている。
また、重粒子線は従来の放射線治療が効きづらかったがんにも効果がある。骨軟部腫瘍ではX線治療と比較して生存率の改善がみられ、切除不能な膵臓がん、術後の再発直腸がんでの効果も報告されている。重粒子線治療は治療回数が少なく治療期間が短く済むことも知られている。
メリットの多い重粒子線によるがん治療だが、開始から30年経つが普及したとは言い難い。実際、2022年の重粒子線治療数は5162件で10年前の1276件から4倍となったとはいえ、がん治療数全体の0.4%に過ぎない。なぜか?
「重粒子線治療が行える施設が現在7カ所しかないこともありますが、一番の理由は長らく公的医療保険の対象外で、患者側が数百万円の費用負担が必要だったからです」
■進む小型化と複数イオン線照射
2024年以前に公的医療保険の対象だったのは、手術による根治的な治療法が困難な限局性骨軟部腫瘍、長径4センチ以上の肝細胞がん、肝内胆管がん、局所進行性膵がん、手術後再発した局所大腸がん、局所進行性子宮頚部腺がんや一部頭頚部がん、限局性および局所進行性前立腺がんなど。2024年6月以降は、手術による根治的な治療法が困難なⅠ期からⅡA期までの早期肺がん、長径6センチ以上の局所進行子宮頚部扁平上皮がん、婦人科領域の臓器から発生した悪性黒色腫などが加わった。