単なる擦過傷では済まない…靴擦れが引き起こす意外な病気
すぐに抗生物質の点滴による治療が始まったが、入院後に男性の血圧が急低下。全身に赤斑を伴うショック症状が表れた。
「靴ずれでできた膿からは多数のグラム陽性球菌が発見されました。この菌は後日保健所で確認されましたが、予想した通り、毒素産生型のメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)でした」
男性は、毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群=TSS)と診断され、集中治療室(ICU)に移動。治療を継続した。それでも無事退院するには半月以上かかったという。
■若い人ほど注意が必要
TSSは黄色ブドウ球菌が産生する毒素が免疫系のT細胞を活性化して大量のサイトカインが短期間に放出されることで発症する。急激な発熱、低血圧、紅斑、下痢、筋肉痛などの症状が表れ、中には呼吸不全や肝機能障害、凝固異常といった多臓器不全から死に至ることもある。
「ただし、黄色ブドウ球菌自体は人の皮膚や鼻の中に常在するありふれた菌です。普段は害はありません。皮膚を切ったり、刺されたり、やけどしたり、皮膚のバリアーが壊れたときに感染が起きやすくなります。TSSは男性、女性、子供にかかわらず誰にでも起きる病気ですが、過去には生理時にタンポンを長期間入れっぱなしにしていて感染したケースが多く報告されました。同じように鼻の奥の鼻血を止めるためガーゼなどを挿入し、それを入れっぱなしにしたことで感染することもあります。残りはやけどや切り傷、虫刺され、外科手術後の局所感染によるものです」