ショックを受けて…黒髪が「一晩で白髪になる」はあり得るのか
フランスの王妃マリー・アントワネットには、処刑の恐怖から「一晩で白髪になった」という伝説があります。しかし、科学的には黒髪が一晩で真っ白になることはありません。ただし、ストレスと白髪には深い関係があります。強いストレス状態が続けば血流が滞り、毛細血管が収縮し、毛母細胞に栄養が届きにくくなります。それによって、髪の色のもとになるメラニン色素を作っているメラノサイト(色素細胞)の働きが衰え、白髪が増えます。
さすがに一晩で真っ白になることはないですが、徐々に白髪になって、早ければ1カ月~1年で印象が大きく変わる方はいらっしゃいます。たとえば、バラク・オバマ元米大統領は、2007年に大統領選への出馬を表明して以来、「白髪が急激に増えた」と報じられました。実際に就任1年後の写真を見比べると真っ白になっています。
加齢や遺伝による白髪の場合は、不可逆的な要因があります。しかし、ストレスによる白髪であれば、生活習慣を見直し、血流を促すマッサージや、栄養不足、睡眠不足を解消することでメラノサイトの働きが回復することもあります。
また、病気によって急激な白髪になるケースもあります。例えば、胃粘膜が萎縮し、胃液の分泌が悪くなることで起こる「悪性貧血」です。赤血球を作るために必要なビタミンB12の吸収ができなくなる病気です。ビタミンB12にはDNAの生成を助ける働きがあり、このDNAがメラノサイトも作っているため、髪の毛を黒くする方法がなくなって白髪になるのです。
「甲状腺機能低下症(橋本病)」では、急に白髪が増えたことによって病気が見つかることがあります。甲状線ホルモンの量が不足して、新陳代謝が低下し、メラノサイトの働きが衰えるためです。
さらに、「腎不全」の患者さんも白髪になりやすいといえます。腎臓は心臓から送り出されてきた血液から、老廃物を尿として排出させる働きがあります。腎臓の機能が低下し、老廃物を排泄できなくなると全身の臓器に機能障害を起こします。血流も悪くなりますから、メラノサイトにも影響するのです。
とてもまれですが、メラノサイトに対する自己免疫疾患「原田病」が白髪が増える原因になる場合もあります。両目に急性びまん性ぶどう膜炎を発症し、網膜剥離を起こすほか、頭痛、耳鳴り、難聴、そして白髪になる症状がみられます。
いずれの場合も、病気が原因の白髪であれば、同時に疲れやすさ、むくみ、だるさ、食欲不振などの症状が伴います。白髪の急激な増加とともに諸症状があれば病院にかかりましょう。
▽コッツフォード良枝 2007年、山梨大学医学部卒業後、国際医療センター国府台病院で初期研修、日本医科大学麻酔科に入局。三井記念病院などでの勤務を経て13年に美容外科に転科。17年オバジクリニックトウキョウ院長、18年銀座禅クリニック院長に就任。日本抗加齢医学会専門医、日本麻酔科学会などに所属。