負担が少ない低侵襲治療を受けるなら裏にあるリスクを知っておく
近年の心臓手術は、より患者さんの負担が少ない「低侵襲化」の方向に進んでいます。従来のように大きく開胸して行う手術に代わり、内視鏡を使いながら小さい切開で処置を行う「MICS」や、カテーテルを使って傷んだ心臓弁を交換する「TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)」といった低侵襲治療がどんどん広まっています。
負担が少ないことから、体に不具合を引き起こす合併症のリスクが減り、順調であれば短期間での退院を可能にするメリットが最大の魅力で、開胸手術はリスクが高くて実施できない高齢者の治療も可能になってきたのはたしかです。体への負担が少なく、入院期間が短いという理由だけで希望する患者さんも確実に増えています。だからこそ、そうした低侵襲の裏にあるリスクについて、患者さんは知っておくべきです。
■エビデンスの多くは「非劣性」
低侵襲治療も、もちろんエビデンスに基づいた治療法です。しかし、その多くは「非劣性試験」によって構築されたエビデンスになります。これは、冒頭でお話ししたランダム化比較試験のような大規模ではなく、少ない症例数で新しい治療と標準治療とを比較する臨床研究を行い、「新しい治療法の効果は、許容範囲内で従来の治療法に劣るかもしれないが、ほかのメリットがある」といったことを確認する試験です。たとえばMICSでいえば、治療の内容が従来の開胸手術と同じならば長期的な成績は劣らないし、短期的には回復期間が早いというメリットがある、といった感じになります。短期的なメリットがクローズアップされれば、希望する患者さんも増えるのは当然です。