文房具雑学本特集
「日本懐かし文房具大全」きだてたく著
2017年がスタートした。正月気分からもそろそろ抜け出さなければならないが、仕事モードのエンジンがかからないという人もいるだろう。そこで、まずは仕事の相棒である文房具を見直してみるのはどうだろう。今回は、普段何げなく使っている文房具の歴史や雑学を知るための5冊を紹介。新年会での話のネタとしても役立つかも知れないぞ。
子供の頃にお絵かきで使った「クレヨン」と「クレパス」。その違いをご存じだろうか。
クレヨンはロウと顔料を混ぜたアンコスチックがルーツで、古代エジプトでミイラ棺に絵を描く画材としても用いられていたという。一方のクレパスは、クレヨンの主原料に油を混ぜ合わせたもので、大正14年に日本の桜商会(のちのサクラクレパス)が発明した新しい画材だ。
クレヨンは硬くてポキポキと折れるが、クレパスは油を含む分ネットリと軟らかく塗り広げも簡単。しかし発売当初から粗悪な模倣品が後を絶たず、昭和3年ごろのクレパスのパッケージと、一本一本に巻きつけられた紙すべてには「ほんとの」の文字が。サクラクレパスの偽物に対する怒りがビシバシと伝わってくる。
香り付きの練り消しや象が踏んでも壊れないアーム筆入など、懐かしの文房具のよもやま話が満載だ。
(辰巳出版 1200円+税)
「仕事文具」土橋正著
仕事の中で発生する“困った”を解決してくれる便利文房具235アイテムをご案内。頭の片隅で覚えておけば、スピーディーな問題解決につながるかもしれない。
分厚い書類に穴を開けたいときは、パンチをセッティングしたら椅子から立ち上がり、思いきり体重をかける必要があってなかなか重労働だ。そもそもパンチはハンドルを押す際に支点・力点・作用点によるテコの原理が使われており、軽い力で穴を開けたいなら力点、つまりハンドル部分を長くすればいい。しかし、そうなるとパンチ自体がどんどん巨大化してしまう。
この問題を解決しているのがカール事務器の「アリシス」。ハンドルは短いままで内部に二重のテコ機構が仕込まれているため、どんなに分厚い書類でも“サクリ”と穴が開くという仕組みだ。文房具に詳しくなれば仕事の質も変わるゾ。(東洋経済新報社 1500円+税)
「文具に恋して。」菅未里著
文房具を知りつくし、TPOに合った文房具の提案をする「文具ソムリエール」である著者が、文房具選びに役立つうんちくをご紹介。
ペンを買う際にチェックするポイントといえば書きやすさぐらいのものだが、“太さ”と“色”を無視してしまうと、文字を書いている手元の印象が悪くなるので要注意だ。指が太く節が目立つ手の人がスリムタイプのペンを使うと、アンバランスで滑稽に見えてしまう。フランスの老舗メーカー、ウォーターマンの「エッセンシャルエキスパート」など、軸が太く力強い印象を与えるペンを選びたい。
手が日焼けしている人は、ぜひゴールドのペンを使って欲しい。色白の人が使うとペンだけが浮いて下品になってしまうが、小麦色の肌はゴールドによく合い、華やかさを演出する。黒軸にゴールドの金具を組み合わせたパーカーの「IM」などがお勧めだ。
(洋泉社 1200円+税)
「最高に楽しい文房具の歴史雑学」ジェームズ・ウォード著、関根光弘 池田千波訳
誰もが使ったことのあるお馴染みの文房具について、誕生の歴史や開発秘話をつづる本書。
今や世界中で使われ、学生はもちろん社会人も仕事の資料を読み込む際などに欠かせないマーカーペン。その原型を開発したのは堀江幸夫氏という日本人で、昭和21年に現在のぺんてる社の前身となる大日本文具株式会社を創業した人物だ。
同社は当初、クレヨンや絵筆などを製造していたが、ボールペンの普及に目をつけた堀江氏は、新型ペンの開発に着手。筆先はアクリル繊維を熱と樹脂で固めて強度を出しつつ、ボールペンとは違う独特の柔らかさも持たせた。これは、日本人に馴染みの深い毛筆の書き味を残すためだったという。
他にも、ホチキスの進化論や口紅がヒントとなったスティックのり、ドイツの時計職人が発明した画びょうの誕生秘話など、さまざまな物語を紹介していく。
(エクスナレッジ 2200円+税)
「万年筆インク紙」片岡義男著
「スローなブギにしてくれ」など多数の映像化作品を生み出してきたヒットメーカーの著者。あるときから万年筆で字を書くことの魅力にとりつかれ、世界各国の万年筆を使ってみたという。そして分かったのが、日本語を書くには日本の万年筆が一番だということだった。
名だたる海外製品は、切れ目のない筆記体の欧文を左から右へ横書きしていく分には非常に使い勝手がいい。しかし日本語は、一画ずつペン先を紙から離して書いていく。さらに、右上から左斜め下へはらう動きも多いが、これが欧文の筆記体にはまずない。そのため海外製品でこの動きをすると、インクが出ない、かすれるなどの不具合が表れやすいのだという。書き心地が絶妙だという日本のプラチナ万年筆「3776センチュリー」との出合いや、紙との相性など、著者の文房具に対するこだわりがつづられたエッセーだ。(晶文社 1800円+税)